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Vol.75 材木考 松(3)

J・H のささやき VOL.75 『材木考 松(3)』
 
こんにちは、ジェームス・ホントです。
東京オリ・パラリンピックの大会エンブレムがようやく決まりました。
組市松紋(模様)です。
市松紋は古墳からも発掘されるほど古い模様で、法隆寺にも見られるとか。
辞書を繰ってみると、
『紺と白とを打ち違えに碁盤縞を並べた模様で、歌舞伎俳優の佐野川市松の姿を模
したものともいう』とありますが、いまひとつ要領を得ません。
樹木の松とは関係ないようです。
しかし、松という文字がはいっているので、良しとしましょう。
     『婚礼に不可欠な高砂』
さて、前述したように松はめでたい木です。
瑞木ではナンバー1の木で、それは『高砂』に象徴されます。
結婚式で必ずうたわれる、あの高砂です。
しかし現代は、結婚式も多様化、あるいは簡略化しているので、出番は減っている
のでしょうか?
高砂の初出は古今集で、以来、兵庫県の高砂の松は徐々に有名になり、その後、室
町時代に能役者・能作者の世阿弥が松から得たイメージを膨らませて、能を作りま
した。作中謡われる歌が、『高砂や この浦舟に 帆をあげて』です。
なぜ、世阿弥は松からそんな能を作るに至ったのか? 
まず、高砂にあった松が『黒松と赤松がひとつの根から生え出た松で、まるで夫婦
が深い契りで結ばれて、ともに長生きしているようだった』からです。
さらにそこから、相老いるとなり、相生という地名になったようです。
そして近隣にあった住吉の松がそこに加わって、『ふたつのものが一つになる』と
いう目出度いイメージが増幅され、新カップルの幸福を祝う歌になりました。
『あれをまた聞きたいから、女房と別れるか、何度きいてもいいもんだ』などと不
謹慎なことを思ってはいけませんよ!
 
世阿弥は能の完成者としてつとに有名で、『秘すれば花』という名句も確か世阿弥
の言葉だったはずですが……
 
    『松と美術工芸・文学』
松を描いた絵は無数ですが、松を単体で描いたものは少なく、花草、山水、人物、
動物とともに描かれています。
平安時代にはすでに『源氏物語絵巻』に登場し、それ以降は、爆発的に描かれてい
ます。
雪舟の『天橋立図』、長谷川等伯の『松林屏風』、さらに丸山応挙、 江戸時代に
なると狩野探幽、尾形光琳、俵屋宗達、近代では横山大観と枚挙にいとまがありま
せん。
工芸品では織部焼、鍋島焼、九谷焼、有田焼とこちらも大量に松が採用され、日本
人がどれほど松を愛してきたのか、と驚愕するほどです。
 
文学作品も同様で、古代では古事記、日本書記、江戸時代では芭蕉、蕪村、明治の
夏目漱石、種田山頭火などが歌を残しています。
 『松植えて 竹の欲しさよ 秋の風』   松尾芭蕉
 『松立てて 空ほのぼの 明くる門』   夏目漱石
そうそう、映画を思い出しました。
愚生は子供の頃、今東光原作の映画『悪名』が大好きでした。配給は大映でした。
勝新太郎(あさきち)と田宮二郎(せいじ)の名コンビが、この世の悪をバッサ
バッサと退治して行く痛快ドラマでした。喧嘩自慢のせいじが、あさきちにコテ
ンパンにやられて、『あんたの子分にしてくれ』と頼みます。
あさきちは、わしはカタギだから、子分は持たんと拒否しますが、せいじは、な
んとか拝み倒して子分になり、ふたりの道中記が始まります。
その中の、田宮二郎の啖呵が秀逸でした。
『梅に鴬、松に鶴、あさきちときたら、せいじときまっとるんや、われ、わしを
知らんのか!』
そんなせりふでした。で、血の気が多くてボクシングの心得があるせいじのパン
チが電光石火の速さで繰り出されます。
いや、カッコよかった!
    『白砂青松』
白砂青松、綺麗な言葉です。
日本人が海をイメージする時、真っ先に思い浮かべるのはこの言葉ではないでし
ょうか?
さて、そうした風景が、いまの日本にどれほど残っているのか?
また都心部にあった松林も、昭和40年代に入って、車の排ガス、光化学スモッ
グ、あるいは松食虫の被害で激減しました。その後、国、各自治体がこれはいか
んと、松の保護に乗り出しましたが、その成果はどれほどあるのか?
 
皇居の松は徳川吉宗が防風林として植えたもので、1722年と言われています。
さすが、ですね。
日本では、1300年も前の天武天皇の時代から、『みだりに山林を焼折すべか
らず』とのお達しがあった由、伐採、剪定、植樹、これらの理想的な形とそのサ
イクル、難しいこととは思いますが、いつまでも森林大国であって欲しいものです。
2020年、あちこちで樹木が減少、なんて状況になってないよう願っております。
樹木の聖霊に仕返しされるぞ。そう思います。
 参考図書 『ものと人間の文化史・松』 高嶋雄三郎著 法政大学出版局